すらいむがあらわれた

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無国籍

たまたま友人から譲ってもらった本なのだけどいろいろと面白かった。

無国籍 (新潮文庫)
無国籍 (新潮文庫)
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陳 天璽
新潮社 (2011-08-28)
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筆者は横浜華僑の一家の生まれ。台湾が母国の中国人として教育を受けて成長した。
この本は日本を出国した筆者が台湾で入国拒否され、戻ってきたら日本でも帰国を拒否されるというエピソードから始まる。台湾のパスポートを持っていて日本出身だというのに。


筆者の両親は中国出身で第2次世界大戦後に台湾に渡り、その後日本で華僑として一家を構えた。当初台湾籍だったが日中国交回復の結果、日本で台湾籍が認められなくなってしまった。筆者の両親はさまざまな事情から中国籍でも日本籍でもなく無国籍となることを選択した。
無国籍の人が外国に行こうとすると手続きが大変面倒になる。
本の冒頭のエピソードの場合は著者本人の書類の不備と日本の入国管理官のミスが重なった結果で、難民でも犯罪者でもないのにどこの国へも入れないなどという事態が発生したりもする。


筆者は大学生になると自分がマイノリティでしか居られない日本を出て留学するが、アメリカに行って中国人だと名乗っても中国の流行は話せないし(結局、日本生まれの中国人と自己紹介する)、今度は中国人の国である香港に行ってみれば今度は広東語が話せずまたしてもマイノリティから脱することができない。こうした経験をした結果、とうとう著者は無国籍であることを自らのアイデンティティにし、世界の無国籍者を研究する学者になってしまった。
もっとも国際的な研究をする学者が無国籍だと調査に支障がですぎるので筆者は結局日本国籍を取得している。


無国籍という立場を通して、日頃意識しない国籍とアイデンティティについて考えられる面白い本だった。
この本の感想をネットで探すと「無国籍だから差別するなんてひどい!」という論調のものが多いのだけど、世界の多くの国では自国の国籍を持つものと外国人や無国籍者とは権利に差があるから日本が取り立てて悪い訳ではない。そしてこの筆者の場合は彼女の人生の中で何度か選択して無国籍を選んでいた経緯があり、たとえば難民や不法入国者の子供が法律の問題で国籍を得られなかったケースとはだいぶ違うのでいちがいに批判できるものではないと思う。差別は悪い!と単純に考えるのではなく、この本からもっと多面的な物事の見え方を読み取ったほうがいいじゃないかと思う。